今回の件でわかった事があります。
それは「遠回りも悪くない」という事。(初出:2017/03)
そして今、長い旅を終え重い荷物を降ろして感じる絵も言えぬこの開放感が、なんと素晴らしいのだろうかと。
そもそも20数年前の10cmフルレンジスピーカーユニットをガラクタ置き場から発見したところからはじまったDAC選びの旅の道程のことです。
今、私の「コンクリートブロック&集成材パネル・AVラック(?)」には、TEACのNT-503が鎮座ましまして、有機ELがビットレートを白く表示しております。
長い旅の末辿り着いたのは、なんとUSB DDCでも純粋USB DACでもなく、「USB DAC/ネットワークプレーヤー」と呼ばれる、いわゆる複合機でございます。
長い道のりの果てに、TEAC UD-501というオアシス(比較的純粋なUSB-DAC)に辿り着いた私は、そこを定住の地と定めて暮らしはじめたのですが、使い込んで行くと私の環境ではUD-501が宝の持ち腐れになる事に気付きました。
できるだけ単純、純粋にPCオーディオを楽しみたい私は、USB DACからのデータをAVアンプに集約せず、パワーアンプに直接繋いで音出しをしたかったのですが、UD-501の前面パネルの特等席にドドンと付いている音量ダイヤルはヘッドフォンにしか使えないモノである事が判明。
「そういう仕様なんだから仕方ない。じゃあ、ちょっと面倒だけどボリュームはパワーアンプで調整するか」と思ったのも束の間、UD-501のアナログ固定出力が大きすぎてパワーアンプのボリュームを最低にしてもいわゆる爆音状態で、野中の一軒家くらいでしか楽しめない音量である事に頭を抱えたのでした。
仕方なくせっかくのバランス出力を諦め、それでもささやかな抵抗ということで、XLR-RCA変換ケーブルを使ってAVアンプに繋いで鳴らしていたのです。
しかし一度思いついたアイディアに捕らわれてしまった私は、どうしてもAVアンプを通さず、XLRプラグを使ってシンプルに音出しがしたいと考え、アレンアンドヒースという会社の安価なミキサーに手を出しました。
だってスタジオミキサー系はXLRが標準プラグ(というか接続方法)。UD-501のバランス出力がムダになりません。
そして届いたミキサーを繋いで音出しをしてみると、第一印象は「これはかなりいいんじゃね? 私のアイディア最高!」と小躍りをしたのでした。
だがしかし。
夜中に思いに任せてノリノリで書いたラブレターが、翌日の昼休みに読み返すと死にたくなるほど恥ずかしい……そんな事を思い起こしてくれるような状況が、翌日改めて聞きこんだ時に生じました。
「これはかなりいいんじゃね?」と思った時の再生環境は、ごくごく小音量だったのです。ウイスパーサウンドというか。
ようするにミキサーの音圧設定などのキャリブレーションをちゃんとやった上でアンプに繋いでまともな音量を出して分析的に聴いてみると、これがちょっと人が変わったみたいにイマイチな音だった、という。
具体的にはまず定位が全然ダメ。音も特定の帯域が強調されている感じで、明瞭さがまったくなくなって、ゴチャゴチャした感じになってしまっていたのです。本当はアンサンブルなのにチンドン屋の演奏に聞こえるというと言い過ぎですが、まあそんな方向性です。
「なんで夕べはあんなにいい音に聞こえたのだろう?」
酔った勢いで口説いた美女だと思っていたお姉さんが、朝日の差し込むベッドで見てみると死にたくなるような○○だった、みたいな?
私はその事実を認識してプツンとキレました。
いや、マジでキレましたね。
「プッツン」状態のまま、私は書斎急ぐとMacを立ち上げ、ブラウザの検索エンジンで「UD-503」と打ち込んでエンターキーを押したのです。
「どこで買おうかな」などと考えつつ。
「多少の値段差だったら、一日でも早く届くところがいいなあ。やっぱりAmazonかヨドバシかなあ」などと考えつつ。
で、検索結果の上位にあったAmazonの製品ページをClick。
ふむ。先日と値段は変わっていない。安定の10万円クラス。
でも、ポチれば当日来ます。ヨドバシも当日に来るけど値段の差が大きい。
多少の差ならヨドバシで買いたいのですが、まあ仕方ないかと「1CLICK」ボタンを押そうとしたその時、ふと、ブラウザ下部に表示されているリコメンド欄にあった、UD-503と似たような画像に目が止まりました。
「ん? TEAC NT-503……。ふーん」
1CLICKボタンの上にあったマウスカーソルは、そのNT-503の画像で上でClickされることになりました。
Amazonの商品説明欄をざっと読んだ私は「これって……UD-503より私のニーズに合致してるんじゃ?」とばかりに、いきなりメーカーのサイトへ飛んで情報をチェックし始めたのです。
以前から名前を挙げて「これが私の本来欲しいデバイスかも」と紹介してきていたUD-503ですが、その兄弟機のNT-503こそが「私が本来ほしいデバイス」である気がしてきました。
実は理想に近いと思っていたUD-503ですが、ほんのちょっぴりだけ引っかかっていた事があるんです。
それは「必要の無いヘッドフォンアンプに力入れすぎじゃね?」という点です。もちろんヘッドフォンアンプとしての価値を見いだしている人とはニーズが違うのでそういう評価になるわけで、UD-503をディスるつもりはありません。つまり必要ないから使うつもりはないのだけど、それにしては価格に対してフィードバックされるものがかなり割り引かれるなあ、という「ちょっと損した感」をチクチクと感じていたわけです。
その辺がまあ庶民的というか、いくらでもカネもってるなら気にしない点ですね。
というか、いくらでもカネ持っていたらこの価格帯ではなくて、完全に違う選択肢から選ぶわけなんでしょうけど。
翻ってNT-503。
この機種は言ってみればUD-503とは双子の関係です。でも一卵性双生児じゃなくて二卵性双生児というイメージです。
似てるけど、それはあくまでもうり二つではなく、兄弟姉妹としての類似性。DNAなんかはおなじだし、似ているんだけどでも別人。そんな感じです。
NT-503とUD-503の違いはズバリ、「バランス出力のヘッドフォンアンプ」をとるか「ネットワークプレイヤー機能をとるか」という二択であり、排他モデルであるわけです。
「(先に発売した)UD-503のヘッドフォンアンプ部分をちょっとケチって、その代わりにネットワークプレイヤー機能を載せました」というのがNT-503の正体です。DACとかアンプへの出力とかプリアンプ機能などの部分(DNA)は同一です。
サイズは同一。パネルの見た目もほぼ同じ。2つあった丸いヘッドフォンジャックのうちの一つが四角いUSBスロットに変わっているだけ。
私にしてみれば同じ値段なら、全く不要な「ムダに頑張ったヘッドフォンアンプ部分」の代わりに「面白そうだし、使ってみたいな」と思えるネットワークプレイヤー機能付きを選びます。
というか、NT-503のサイトをチェックしていて、私はホッとしましたね。
「いきおいに任せてUD-503を選ばなくてよかったー!」と。
NT-503こそが、今の私に一番フィットするUSB DACなのでございます。
じゃあさっそくNT-503をポチるぜ! と思う私ではありません。
この段階で、ようやく私は我に返り、普段の沈着冷静さを取り戻していたからです。
「NT-503と同じ機能を持っているライバル機種はあるのだろうか?」
そう、比較検討の開始です。TEACに恩義はありませんからね。別にTEACの代わりをTEACから選ぶギリなどはないのです。
しかし。
ざっと調べたところでは、バランス出力を持っていて、ライバルになり得る同価格帯の小型ネットワークプレイヤーは存在しないようです。
どうやら「バランス出力搭載」を条件にするとほぼ壊滅するようです。
なのでハラは決まりました。
たぶん、これは運命だったのです。
そして恐ろしい事に、急遽決定したNT-503ですが、ポチれば当日に届くのです。
そう思ってポチろうとしたところで、私の手が止まりました。
最後にもう一度自分に問いかける為です。
「本当にこれでいいのか?」
「純粋なUSB DACがほしかったのに、結局複合機かよ?」
「多機能になればなるほど反比例して音は悪くなるんじゃなかったのか?」
「そもそもPCに繋いでるんだし、わざわざ制限のあるネットワーク経由で音楽ならす必要ってあるの?」
「そんな機能よりヘッドフォンに興味を持った時にやっぱりUDにしておけば良かったなんて後悔するんじゃないの?」
等々。
しかし私はためらいなく自信をもってポチったのです。
「だってネットワークオーディオプレイヤー機能って、なんか面白そうじゃん?」
というノリと共に。