結婚してはじめて住み始めた団地の部屋から、数えての4件目の今回の引っ越しのタイミングで初めてソファというものを導入することになりました。
いやあ、長かった。(._.)
というのも、同居人がソファ嫌いなのです。
対して私はソファ好きなのです。
こういう場合は我が家の場合、同居人の好みが優先します。
なので我が家では今までソファという家具はご法度だったのです。
同居人がソファ嫌いの理由は後ほど説明します。どちらにしろその理由に対する反論は私にはなかったということなのです。
言い換えるならば、反論してまでソファを導入しようとは思わなかったということなのでしょう。
ソファ好きな私ですが、結婚するまで暮らしていた実家にも実のところソファという家具はありませんでした。
実家はまあ、基本的に和風住宅だとお考えください。
なので座椅子はあってもソファはなし。
一応ダイニングにテーブルと椅子はありましたが、居間は和室。畳の上に座るというスタイルです。
なのでソファはなし。
しかしその反動もあって? 私は西洋風の暮らしぶりに憧れたんでしょうね。
本の虫だった私は、西洋の本の中に描写されている西洋風の暮らしぶりに思いを馳せ、その情景に憧憬していた、と。
その西洋風の暮らしぶりの代名詞的な家具が、私にとってはソファだったのです。
なので小学生の頃からすでに「ああ、いつかソファのある部屋で暮らしたい」と考えるようになっておりました。
結局私は結婚するまで親元を離れなかったこともあり、ソファのある「優雅で安楽でおしゃれな暮らし(私はそう無双していたのです)」は長い間文字通り憧れであり続けました。
ソファ、私にそってそれは友人の家にしかない素晴らしい生活調度品であり続けたのです。
結婚が決まり、二人の新しい住居が決まり、家具などの生活調度品を選ぶ段になって、私はあることに気づきました。
「あれ? リストにソファがない」
ちなみに生活調度品については、基本的に同居人の意見を尊重することは結婚前からの取り決めでございました。
私は同居人に訪ねました。
「ソファは?」
同居人は即答しました。
「ソファは置かない」と。
私は当然理由を尋ねました。
何しろ「これでやっとソファのある暮らしができる」とワクワクしていたからです。
ですが、同居人の答えは実に冷徹でした。
そしてその答えが実に理性的で極めて合理的であったために私はまったく反論ができませんでした。
「部屋が狭くなるから絶対に嫌」
我々二人の最初の住居は、3DKの団地でした。もちろん賃貸です。
結婚する時のコンセプトが「両親に金の世話にならない」というものでしたから、若く、お金もない我々にとって、いきおい住居にかけるお金は限られます。
ましてや通勤に便利な場所で借りられるそこそこの広さの部屋となるとあまり贅沢は言えない状況だったのです。駐車場もいりますからね。
これが3DKじゃなくて3LDKだったら、ひょっとしたらソファがリストに乗っていたかもしれませんが、同居人はそもそも実家でもそこにあるソファが邪魔だと思っていたらしく、まあ可能性は低かったのでしょうね。
同居人はできればなにもない空間がぽかっと空いたリビングにやすらぎを感じるのです。リビングが狭いと心が窮屈になるとでもいいましょうか。
同居人にとって、ソファはいわばそんな空間をスポイルする「敵」であったのです。
私がソファのあるリビングでの暮らしを夢想していたように、同居人はソファがないゆったりとした空間のリビングを理想としていたのです。
その後、最初の引っ越しで新築の3LDKのマンションに移りました。
が、そこでも「LDKになって広くなった空間を思い切り楽しむ」事が同居人の楽しみであったため、ソファはこ最初からリストに載ることはありませんでした。
そしてその後、更にLDKが広いマンションに買い替えました。
ですが、そこでも同居人の好みはゆるぎません。
「ソファでリビングが狭くなるなんてありえない」という一言は、私の口からソファという言葉が出ることを封印することに成功したのです。
そして月日がながれ、三度マンションを買い替えると決める際、私は封印を解くことにしました。
「この間取りなら、ソファがおけるよね?」
確かに、確かに今までの設計だと、ソファを置くことでLDKという空間に閉塞感が出ると言われたら確かにそういう意見もありかもね、と同意する自分が存在しました。
でも、今度のLDKでは(私達にとっては)相当にだだっ広い空間が確保できていました。
何しろ本来4LDKで設計されている間取りを、2部屋とっぱらって2LDKの間取りにカスタマイズしたのです。取っ払った2部屋リビングにマージして一つの部屋にしてしまったのです。
4LDKを2LDKにする案を強く押したのは私です。
同居人も基本的には2LDK案に賛成しつつも、私用の書斎を確保しておきたい言ってくれました。だから3LDK案を対案として持ってきたのです。
私用の書斎を確保してくれようとする同居人の思いやりには涙がでそうでしたが、私にとってソファを導入できるなら、書斎がなくなることなどなんの問題にもなりませんでした。
寝室は独立させるとして、あと必要なのは書庫(CD庫? 納戸?)兼楽器演奏用の部屋程度。
私や同居人のデスクは、広くなったリビングの隅においてしまえばいいのです。
「そしてここにソファを置こう」
家具のレイアウトを話し合いながら、テレビを置く場所を決めると私はその前を指さしました。
ソファでくつろぎながら撮りためたアニメを観る。なんと至高のひとときでしょうか。
「ダイニングからだとテレビ画面が遠くなりすぎてよく見えないでしょ?」
私はテレビの場所と、そのほぼ反対側に位置するダイニングテーブルを指さしてそう言いました。
「かと言って、今までみたいにテレビの前に寝転びながらテレビを眺めると、せっかく広いリビングの一部しか使わないで暮らしているようなものじゃん? ここの部分って死んでるスペースだよね?」
そう言いつつ私が指差すのはリビングの中央部分。
そこはダイニングテーブルとテレビの間にある空間です。
「前から言ってるように、寝転んでテレビ画面を見上げてるから、肩が凝ったり目が疲れたりするんだよ。お互いもう若くないんだから無理な体勢でテレビを観るのはやめて、ソファでくつろぎながら正面からちゃんと見ようよ」
そうなんです。
今まではダイニングテーブルを使わない時はテレビの前にラグを敷いて、そこに寝そべりながら床ダラダラ系で暮らしていたのです。
「これだけリビングが広いと、ここにソファを置いても部屋が狭く感じるなんてことはないと思う」
そう言ってリビングの間取り図に、ソファの形をだいたいの大きさで書いてみせる私。
「ほら」
「うーん」
体が痛いとか腰が痛いとか首が痛いとか肩が凝るなんて口癖のように言っている同居人も、なんだかんだ言って床に寝そべってテレビを「見上げる」感じで視聴するスタイルが必ずしも快適だとは思っていないのです。
そして客観的に見てもソファを一つ置いたくらいでは部屋が狭く感じるなんてことはないほど、4LDKを2LDKにするという暴挙? は功を奏しているのです。
それでも首を縦に振らない同居人に、私は最後の手段を講じることにしました。
「お願いします。ソファのある暮らしは私の夢なんです。今度こそ置きたい」
小さな笑い声の後で、ようやくOKが出ました。
それが私とソファによる壮大な物語の幕開きを告げるベルでございました。
だがしかし。
結局ソファを買わぬまま、というかソファの選定なども一切しないままに引っ越しは行われ、引越し後は荷物の整理がつかず、ソファ選びどころではない状況が続いていました。
片付かない状況下で「ねえ、そろそろソファ選びに家具屋さんに行かない?」なんて言おうものならただでさえ渋々出たお許しに水を指すことになりかねません。
「この状況下でソファ入れるとか、頭に蛆虫でもわいてんの?」
とか?
で、まあ引っ越して数ヶ月経ってしまったわけですが、私としては一日たりともソファの事が頭を離れたことはありません。
でも急かして藪蛇を突くより、時期が来るのを待つ方を選んでおりました。
信長であってはならないのです。ここは家康作戦です。
まあ、それでも引っ越し当初は「夏のボーナス時期にはなんとか」なんて考えていたのですが、雲行き的に「今年中にはなんとか欲しいなあ」という諦めモードに移行しておりました。
ここで、私が欲しいと思っているソファについて少し。
私はソファが好きといっても、ソファなら何でもいいというわけではありません。
当然ながら理想とするソファがあります。
まあ、最初に書いちゃいますけど、私が理想とする、というか一番欲しいソファは、デンマークはゲタマ社のソファ。
ここまで書くとピンと来る方もいらっしゃるでしょう、そうなんです、ハンス・J・ウェグナーデザインのソファです。
ただ、私が至高としているソファは、誰もがみんな知ってるGE290ではなく、GE375というハイバックのカウチソファです。扉の写真がそれです(GETAMA社のwebサイトより拝借しました。以下全部同)
とはいえ、GE375にたどり着く引き金になったのは、GE290の3人がけカウチ(3人がけのカウチソファは正確にはGE290ではなく、GE2903)でした。
いつだったかはもう忘れてしまいましたが、若かりし日にとある雑誌(多分インテリア系の雑誌だったと思います)に載っていたソファを見て、私は背中に電撃が走ったような衝撃を受けたのですが、それが同じゲタマのGE290というソファでした。
そもそもその時の私はGE290はおろか、ゲタマ社は当然として、ハンス・ウェグナーなんて家具デザイナーなんて全く聞いたこともありませんでした。家具屋といえばカリモクとか大塚家具くらいしか知らないような、つまり極めて普通の、特段インテリアに対した興味もない若者でした。
そんな私でも、GE290のデザインが只者ではないことはすぐに分かりました。
なんというか、それは私にはソファとして完璧なデザインに思えたのです。
というか、私の中ではGE290を超えるデザインのソファは未だに存在しません。
要するにそこまでハートを射抜かれてしまったというわけなのです。
じゃあなんでGE290じゃなくてGE375なのか?
いや、GE290は本当に素敵です。すごくほしいんです。
というか、デザインはGE290のほうがGE375のアーム付きより断然上です。
でもね、時間が経ってくると、ソファに対する要求がいろいろと具体化してくるんですよ。単純にいいな、と思う事こと、実際に買うとしたら、というのは別物だったりすることも多々あるじゃないですか、そういう系なんです。
その最も高い要求というのが、私にとって「ハイバック」という機能だったのです。
GE290を始めとする多くのソファには、自動車のシートのようにヘッドレストがありません。
背もたれ、つまりバックは、首よりかなり下までしかないのが普通です。
ダラっと体をもたれさせてテレビを見たいなあ、なんて考えている私にとって、首を預ける事ができるハイバックという機能はソファに対する最優先の機能だったのです。
北欧家具に詳しい人、というかインテリア好きな方はご存知だと思いますが、実はGE290にはハイバックモデルもあります。GE290Aというモデルがそれです。
でもGE290Aにはカウチタイプがラインナップされていないのです(多分)。
ちなみに私が「買うならこれ」と決めているGE375ですが、これはGE370というモデルのハイバック版の名称です。
更にちなむと、GE290と違い、GE375やそのオリジナルモデルのGE370にはカウチ、つまりソファはラインナップされていません。ただし、GE370/GE375はいわばモジュラー構造というか、必要な脚数をつなげてカウチにすることができるというトンチの聞いたモデルなのです。上のGE370のアームなしとアーム付きをご覧いただけるとわかるかと思いますが、必要なパーツを好みに合わせて取り付けられるのがGE370系で、その分GE290のようなデザイン的なエレガンスさはスポイルされているというわけですね。
なので私が欲しいGE375というのは、正確にはGE375を3脚とオプションのアームレストを1セット、あと接続用の金具という構成になります。
なお、この構成だと一番安い材質でオーダーしても140万円くらいになりますね。
GE2903だとこれが75万円と、かなりお安くなります。
などと、GE375の価格のことを知ってしまった私はGE375をきっぱりと「雲の上の存在」に祭り上げることにしました。
ええ、経済的な理由でとても買えません。
いや、もちろん買えないわけではありませんが、ソファにそこまで払おうという気がまったくないのです。
良いものは良いお値段である。それは当然ですし、デンマークからはるばる運ばれてくるGE2903が75万円というのはある意味お安いのかもしれません。
でも、私のソファに対する情熱を金額に換算してみたら、そこまで高額ではなかったということなのです。
それは例えば、レンジローバーは好きだし憧れの車なんだけど、さすがに2000万円とか出してまで買おうとは思えないよね、という経済観念だと思っていただければご理解いただけるかと。
言い換えるならば、レンジローバーをあまり悩まずにポンっと買える人であっても、GE375の3連カウチの140万円にポンっとお金を出すとは限らないということです。
要するにソファのお値段としては高すぎてちょっと手が出ないね、というのが庶民たる私の結論であって、ゲタマのGE375は買うものではなく眺めて「いいなあ」とうっとりする相手、要するにアイドルのようなものだということですね、ハイ。
ということで長くなりましたし、今回はひとまずこのあたりで。