OVFというのは実は極々最近に生まれた言葉なので、昭和のフィルムカメラ時代の残存カメラ兵ことボケ老人達は意外にしらない言葉ではないかと想像します。
いや、アンケートとか撮ってないので知りませんが。
というのも、OVFなんて言葉は、EVFが出来た後に「EVF」に対抗する(対になる)言葉として生まれたものだからです。
だってOVFしかなかった時代にあえて「光学式ビューファインダー」なんて言いますか?
「ファインダー」で良かったんです。
それが今だとたいへんです。
「オレのカメラのファインダーがさあ」
なんて話題を振ろうものなら
「ファインダーって、どんな?」
「どんなって、ファインダーって言えばファインダーだろ?」
「いや、だからお前のカメラのファインダーってどんなファインダーなのかって聞いているんだよ。EVF? OVF、それとも背面液晶をファインダーとか言っちゃってる?」
「ええっと……」
考えれば面倒臭い時代になったものですね。
しかし、X-Pro2だとさらにややこしい。
それは、ご存じの通りOVFとEVFの両方を搭載しているからです。
他のメーカーにはまずないですよね。富士フイルムだけじゃないでしょうか。私が知らないだけかもしれませんが。
どちらにしろ富士フィルムはシグマとは違うベクトルの変態カメラメーカーだということです。
クラシックカメラっぽい外観で、オーソドックスなメカだろうな、と思わせておいて中味は変態というのが富士フイルム。一目見れば誰でも変態だと思う外観のカメラを作るのがシグマ。なので両社が合併して外観も中味も変態なカメラを世に出さないことを切に願います。
いや……面白いから出して欲しいかも。(・∀・)
まあ、そういうわけでX-Pro2は頑なにOVFを搭載しているわけです。
個人的には21世紀の現在において「見た目と撮影された画像が全く違う」OVFなんて使う気にはなれません。
同じ理由で視野率100%じゃない「一眼レフ」とかも使う気にならないわけです。なのでフラグシップ中心に買う事になってカネのかかる趣味だな、って思うわけですね。
私がOVFをゴミだと思っているのは、なにもパララックスの問題だけではありません。
ピントの追い込みは光学ファインダーではムリだからです。
昔はよくこんな事を言っていたものです。
「ピントの山が掴みやすい高品位なファインダー(もちろん光学ファインダーの事です)搭載」
とか。
それが実用に足るEVFが発明されてからは、測距点を拡大してピントを追い込めるという画期的な手法が考案され、それになれると「OVFのピント合わせとは何だったのか?」という事にあいなりました。
その事実に向き合えず、「EVFなんかではピントの山なんてわからない」というご老体の多い事。
もはやOVFはピント合わせという戦いに於いては死に体だということを、死ぬ前に理解されるといいのですが。
もちろんEVFにも欠点はまだまだあります。
見え味とか色とかそういう事を言い出すと、見え味がわるくヘンな色のついている光学ファインダーだってあるじゃないかという泥仕合になってちゃんとした議論にはなりませんので、ここは一つどう考えてもOVFにEVFが物理的に敵わない弱点を上げておきましょう。
それは「即時性」の差です。
いわゆる「応答速度」というやつで、光学ファインダーの場合はリアルタイムな映像がそこにあるわけですが、EVFはセンサが受けた信号を映し出すという仕組みなので、どうしてもリアルに対して遅延が発生します。これはもう技術の進歩でもってその遅延を限りなくゼロにしていただくことしかないわけですね。
で、その遅延をもって「EVFなんて使えない」と親の敵の首をとったようにおっしゃる方も多い。
こればっかりは初期のEVFからずっとその進歩を体験してきた私ですら反論する術はありません。だって物理の法則ですからね。
だがしかし。
これだけは言いたい。
「本当にその遅延が問題になってるんですか?」
と。
遅延を理由にEVFをディスる人は反論できない物理的な弱点をただ突いてきているだけです。
その人自身、普段は静物が大半で、せいぜい撮影会という、名前の他人の女の人を写す奇妙な団体の一員としてポートレートを撮っている程度。
あとは子供?
目にも止まらぬ光速で移動したり動いたりする子供だとアレですけど、イマドキのEVFで「遅延の為にはいはいしている息子のベストショットがとれたハズなのにダメだった」とか言います?
その程度だったらEVFの遅延とか関係ないですよね?
「この料理の湯気の具合がズレた」とかいいますか? そこまで遅いEVFとか、これ故障してますから。
もちろんまさに一瞬が勝負のスポーツや野生動物撮影などの動きモノを撮る場合には確かに0.01秒は大きな差かもしれません。
ファインダー像の遅延ばかり問題にされますが、実はカメラ自体にもシャッターボタンを押してから実際にシャッターが開き露出が開始されるまでの物理的なタイムラグが存在します。
従ってそういうタイムラグを嫌う人は常にそのタイムラグが最小のモデルを使うしかないわけで、そうなるともはや各社のフラグシップしか使えませんから大変だなあ、と思います。
そもそもX-Pro2とかをそういう用途で使うというあなたの機材チョイスの方がおかしくね? とか思っちゃうんですが、まあそれを言っちゃうと話が終わっちゃうので、話が終わらないように、富士フイルムは「そういうおかしい人」の為にOVFが使えるようにしてあるわけです。
しかも最新テクノロジ搭載のデジタルカメラなので、ただのOVFでは終わらせず、ハイブリッドOVF、つまりただのOVFではなく、デジタルの恩恵に浴した、テレビで言うと「ピクチャーインピクチャー」的なEVFを別画面に出して、測距点の拡大をしてピントの追い込みに利用できるようにしてあったりするわけです。
ここまで行くともはや富士フイルムの怨念すら感じて気持ち悪い気分になりませんか?
でも私は視野率100%のガチガチのEVF派なのでいくらハイテク・ハイブリッドだろうがOVFなんてゴミだから使わないぜ、なスタンスに変化はありません。
だがしかし。
その信念を曲げてもいいかな、と思う瞬間が訪れました。
それはX-Pro2をより深く理解する為に、そのカタログスペックを眺めていた時です。
ある項目が目に飛び込んできました。
それは「標準撮影枚数」の項目です。
こう書いてあります。
*************
約250枚(スタンダード・EVF)
約350枚(スタンダード・OVF)
※XF35mmF1.4R使用時
*************
二倍というのは大げさですが、OVFを使うとEVFに比べて30%もバッテリライフが伸びるんです。
これは「イザという時」に使える「小技」だと思いました。
まあ要するに手持ちのバッテリが心許なくなったときは、OVFで撮影するといい、という話なんですけどね。
それから既に富士フイルムのOVFは「ただの素通しガラス」ではなく、ハイブリッドという言葉にふさわしいデジタルとの雑種ぶりです。
というのも、かつては「EVFならではの機能」だった、各種パラメータ表示や、水準器まで光学ファインダにオーバーレイ表示が出来てます。
これはOVF嫌いの私でも素直に諸手を挙げて「素晴らしい」と賞賛するしかありません。
実際の見え方にも違和感はありませんし、ネガティブな要素はパララックスの大きさ位になってきました。
パララックスについても色々と工夫は凝らしているようで、実際の撮影範囲を表すオーバーレイの枠がフォーカシングによっても可変したりしてその差をなくす涙ぐましい努力がうかがえます。
残念ながらそのガイドは100%には及ばないのですが頑ななOVF派の方にとっては(パララックスについては)かなり改善されているカメラだと信じていいと思います。
EVF派の私でもX-Pro2のOVFについては「興味深い」と思えます。
先に書いた省電力モードとしてのOVFという事を考えた時、「妥協出来る範囲」なのじゃないかとさえ思えてきたのです。
というわけで、今日は朝からイザとなったら使えるのか? を検証すべく、ずっとOVFを使っています。最終的な結論はまだまだ出ませんが、今のところやっぱり「見えている一部が撮影される」というパララックスに違和感を覚えまくりです。
なんというかこう、性格的に色々ビシっとしていないといやなので、慣れはしないかなとは思いますが、イザと言う時に割り切って使うという使い方なら許容範囲かもしれません。
OVFとEVFの切替が、ファインダーを覗いたまま、ボディ前面にあるレバー操作だけで簡単にできるのも特筆に値するインタフェイスだと感じております。
富士フイルムの設計陣の執念と言うより怨念を感じるデジ・アナ切替式ファインダーとでもいうべきこの仕組みは、たぶんそのうち消えると思いますので歴史的遺物として今のうちに手にしておく事をおすすめします。(・∀・)
あ、特筆といえば、視度調整ができるようになりましたね。
確かX-Pro1は視度調整ダイヤルとかなくて「何これ? ふざけてんの?」って思った記憶があります。
X-Pro2を手にしてX-Pro1を振り返ると、X-Pro1って「プロトタイプのProだったんだな」ってマジで思いますね。プロトタイプがわるければβ機。
「ハードウェアの煮詰めとか、もうその辺でいいから。とにかく早く出せ、取りあえず出せ。ダメなところはファームウェアで何とかしろ。ウチもカメラシステム出してます、という実績を作るのが先決なんだよ!」
なんて営業の偉い人にゴリ押しされて、涙を呑んで未完製品を世に出したというのが真実なのだろうなあ、なんて妄想しております。
それくらいX-Pro1はひどかったなあ。
X-Pro2はそういう意味で「きちんと完成して、出したカメラ」だと思います。
少なくともX-Pro1を使っていて何度もこみ上げてきた「道路に叩きつけてぶっ壊したい」という衝動はまったく起こりません。