(初出:2012/01/16)
うさぎドロップ 全九巻読了しました。
新鮮な感情が残っているうちに簡単な感想文を。
まず、結論から。
「いいお話しでした」
自分も駄文ながらストーリーを綴っている関係もあって、アニメなんかを見ていても、最初のあたりである程度の主要登場人物やら世界観が出た辺りで「ラストシーン」というか「結末」みたいなものを勝手に想像してしまうわけです。
で、このうさぎドロップでも
「ああ、このシチュエーションで始まる物語だと、私なら結末はこういう感じにしたいなあ」
なんて思っていました。
まあ、これはもう息を吸うようにそう思って、息を吐くように考えてしまうわけでサガですね。
で。
この「うさぎドロップ」 私が当初「こうなったらいいなあ」という結末でした。
こういうのって、作者となんとなくシンクロした感じがして読後感がいいというかなんというか。
でも、たぶんラストシーンは当初は作者も一つだけでなくいくつか「妄想」していたのだと思います。
この手の連載ものって、最初からラストシーンを決めて描いている人は皆無にちかくて、読者の反応を見ながらストーリーなんてどんどん変えていくものですから、最初から最後までのプロットが出来上がっていたはずはなくて、そう言う意味では4間まで、つまりアニメで放映された部分で一応の「完成」を見た作品だと思いました。
アニメを見た時に「物足りない」と思ったのは私がストーリーを考える側にいる人間だからなのだと思います。
純粋にストーリーを楽しむ立場の配偶者はBlu-rayのみの部分で「ええ話やった」とA評価していましたし、ちゃんとした完結作品だと受け取っていましたから、たぶんそうなのだと思います。
私が「まだ何も始まってない話じゃない?」というと「これはこれでまとまっているからいい」という返し。
確かに、昨今のアニメって1クールで中途半端に打っ千切るものが多くてきれいに完結させてくれるものはそれこそ希なので、ちゃんと1クールでまとまっている「うさぎドロップ」は貴重な作品だと思えます。
とは言え、5巻以上があるということは私と同様に「この先があるはずだ」と希望する人が多かったのだという証左でしょう。
で、ここから先はアニメ以降の、つまり五巻以降のストーリーについての感想です。
まだ見ていない人のためにネタバレは書きませんがそれでもネタバレには繋がるでしょうから、そう言うのが駄目な人は読まない方がいいと思います。
五巻以降は、まさにラストが決まっていて、そこへ向かうストーリーを描いたという感じです。
拙作の「合わせ月の夜」も、ラストシーンを最初に書いた作品で、プロローグから続く長大な文章はすべてラストシーンの意味を修飾するための文字群なので、同じような感じで描いているのだろうな、と思いました。
私がこの物語のラストがこうだったらいいなあ、と思ったのは、初っぱなの設定に無理があって、ラストをこうするとしたら、最後のどんでん返しに使えるな、と「伏線マニア」的なひらめきがあったのですが、まさにそうで、読んでいて思わずニヤニヤしてしまいました。伏線回収が異様に長い(遅い)のも私に似ているというか、読者サービスが低いというか、すみません。<(_ _)>
アニメ部分を第一部、それ以降は第二部とすると、第一部は「りん」のかわいらしさやいじらしさを前面に押し出しつつ、ダイキチをはじめとする「りん」をとりまく環境の暖かさ、つまり性善説としての様々な立場の親たちを描いて読む人に温かい気持ちをもたらせてくれる穏やかなドラマでした。
まさにそこが「うさぎドロップ」という意味がわからないタイトルとマッチした「はらはらするけど安心して見られる優しいお話し」だったわけで、うさぎドロップという作品はその部分で色づけされていると思います。
私風に表現するなら「きれい事ファンタジー」という感じです。要するにリアリティに欠けるという意味でファンタジーなのです。
対して第二部は、ラストシーンを彩るべく、オトナと、オトナになりかけている思春期の男女が避けて通れないテーマをちゃんと扱っていて、いい意味でも悪い意味でもリアリティを持ったファンタジーになっています。
ファンタジーなのは同じですが、ドロドロとした部分を切り捨てていないところが第一部とは違うところです。
第二部は第一部の十年後から唐突にスタートします。
これも作者と編集との間で色々と丁々発止があったのかな? なんて妄想していますが、十年をすっ飛ばす事で、作者としては随分ズルをしているというか、楽をしています。
なぜなら、ダイキチの元でりんが成長していく間で生じるであろう様々な問題(リンに初潮来たらダイキチどうしただろ? とか、そう言うめんどくさいけど避けて通れない日常に起きるドラマ)をすっ飛ばして、いきなり高校生に成長したリンとダイキチというシチュエーションから始まるわけですから、これはもう、ラストへ向かう為に余計な寄り道をあまりしたくないという作品の意思を感じます。(作者がそう望んだかどうかはわからないので、あくまでも作品)
ラストを完璧にあてた私ですが、そこに至るストーリーはまったく想像と違ってて、コウキの立ち位置なんかは特に「ああ、そうきたか」と。
私も自分なりにドロっとしたストーリーを考えていたのですが、ここは原作が説得力があって、ドラマ性もあり、一枚上だなあとシャッポを脱ぎました。
私の妄想ストーリーだと、たぶんコウキは救われないと思うので、作者のコウキに対する愛情を感じました。
ちなみに私は、コウキとりんと麗奈の三角関係に新たな♂キャラ創造、それを絡ませながらりんの本心をえぐる~みたいなストーリーを妄想していたわけですが。ヾ(≧∇≦)
綴られる決して明るいわけではないコウキに関するエピソードは、周りがあまりに重く受け止めない事で全てが救われているように思いましたし、「まーちゃん」とりんとのエピソードは、私も「あああるべきだなあ」と全面的に賛成というか、シンパシィを感じました。
とにかく前編にわたって流れるのは「りん」の男前ぶりです。
ダイキチも随分男前なんですが、男前になりきれないところを、「りん」の男前がぐいっとひっぱっていく、というそんな描写に心洗われました。
という事で、あんまりかくとネタバレしてしまうので、この辺で。
アニメを見た人も、大人向けの日常世界のファンタジーとして「アリ」だと私は思います。
そう言う意味でオススメです。
最後に、ラストシーンをあそこで留めたという所にも作者の美学を感じました。
「これから(物語がまた)始まる」という感じを第一部のラストで出していたわけですが、第二部のラストの方がよりその感覚が強く、かつラストシーンとしてちゃんとした余韻がありました。
絵はスカスカで最後までアレでしたが、マンガの出来と作画能力とは必ずしも一致するわけではないので、よしとしましょう。
なので!